公務員は聖人君子ではない
港区で起きた成年後見制度を巡る疑惑
東京都港区で、高齢者を対象にした成年後見制度を巡る重大な疑惑が浮上している。事件の中心にいるのは、90代の男性とその長女である。港区役所が「判断能力が低下している」との理由で成年後見人の選任を家庭裁判所に申し立てたことから始まった。いったん後見人が選任されたが、その過程で「診断書の改ざん」があったのではないかという疑いが持ち上がった。
男性は当初、複数の医師から「認知症ではない」「保佐相当」という診断を受けていた。しかし、裁判所に提出された書面は「後見相当」とされ、内容が書き換えられていた可能性が指摘された。医師本人も「自分で修正した事実はない」と証言しており、区職員の関与が疑われている。さらに、後見人がついた後に男性名義のマンションを売却しようとする計画や、住民票を弁護士事務所に移すような動きまで報じられた。
結果として、長女が父親の入院先を突き止めるまでに100件以上の病院へ電話する事態に追い込まれたが、最終的に家庭裁判所と高等裁判所は港区の申し立てを却下し、「成年後見が必要な事情はない」と判断した。男性は現在、家族と暮らしている。一方で、区職員らは「有印私文書変造・同行使」の疑いで刑事告発され、行政に対する信頼は大きく揺らいだ。
行政が個人資産を狙う恐怖
この疑惑が突きつけるのは、行政権力が個人の資産や生活に深く介入し得るという現実である。市民は役所を「中立で公正」と信じるが、内部に倫理観の欠如した職員が紛れ込めば、その権限は市民の財産や自由を奪う道具に転化する。弱者保護のための成年後見制度が、資産を狙うための抜け道となり得る――その危険性を本件は露わにした。
公務員は聖人君子ではない
大多数の公務員は誠実に職務を果たしている。しかし「公務員だから安心」という固定観念はもはや通用しない。汚職、情報漏洩、横領、わいせつ行為……不祥事は毎年のように報じられる。今回の件は、市民の生命線たる制度が悪用されかけた点で特に深刻であり、行政に対する根源的な不信を生んだ。
心理的鑑定を導入すべき理由
公務員の資質審査に心理的鑑定を導入すべきだと私は考える。警察官や自衛官には心理適性検査があるが、個人情報や税金、市民の財産に日常的に触れる地方公務員・国家公務員の多くでは制度化されていない。採用試験の筆記や面接だけでは、倫理観や衝動性、反社会的傾向といったリスク特性は見抜ききれない。心理的資質を測る検査を加えなければ、「犯罪者予備軍」を組織に入れてしまう危険は残り続ける。
職業別に見えるリスク
地方公務員は住民票・戸籍・税務など個人情報の宝庫を扱い、情報漏洩や不正アクセスの誘惑が常につきまとう。国家公務員は入札や補助金を巡って癒着・収賄の温床になりやすい。教育公務員は未成年に日常的に接し、わいせつ・体罰が発生した場合の影響は極めて大きい。警察官や自衛官でさえ、飲酒運転や暴力行為などの摘発例がある。権限を持つ職業である以上、不正リスクは常に存在する。
採用時だけでなく定期的な検査を
心理的鑑定は採用時だけでは不十分だ。人は環境と地位によって変化する。権限の拡大や利害関係の複雑化に伴い、欲望や保身の圧力に呑まれる者も出る。したがって、昇進や重要ポスト就任の節目ごとに再評価を行うべきである。これは監視だけでなく、公務員自身を守る仕組みでもある。倫理的なプレッシャーの存在は抑止力として働く。
市民が安心できる行政のために
本件は一部の役所だけの問題ではない。どの自治体・省庁にも同様の危険は潜む。市民の財産と人権を守るべき行政が、奪う側に回る可能性をゼロにできないからこそ、組織の入口と節目での資質確認、内部通報制度の実効性確保、外部監査の強化、市民参加の拡大が必要だ。心理的鑑定はその根幹を成す一手になる。
結び
成年後見制度は弱者を守るための仕組みである。だが、資産を奪う手段に転用されかけた疑惑は制度の信頼を揺るがした。再発防止には制度設計の見直しと同時に、そこで働く人の資質を厳しく問うことが不可欠だ。「公務員は聖人君子ではない。だからこそ、心理的鑑定で不適格者を入口と節目で排除する」。この当たり前を実装してこそ、市民が安心して窓口を叩ける社会が実現する。役所だから大丈夫、という思い込みを捨て、私たち自身が声を上げ、監視し、改善を求め続けたい。

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